竜人がご飯シリーズの続きですが、視点がお世話係の小さな竜人です。
起床時のからだのダルさに発情期を予感して、朝一番に雇い主へ報告すれば、どうする? などと聞かれて首を傾げた。
「分かってると思うが拒否権はあるし、子を成す方を優先しても一向に構わない」
前回の評価が高いから今回も雌とマッチングできる確率は高いぞと言われたけれど、やはり首を傾げてしまう。
「子を成す方を優先しろとの命令でしょうか。私はそれでも構いませんが、彼がガッカリしませんか?」
特定のパートナーが居ないこちらからすれば、発情期に誰かを抱くという行為は仕事の一環だけれど、囲われて関わる相手が極端に少ない彼にとっては待ち望んだ発情期ではないのか。
「ガッカリはするだろうが、そこはまぁなんとでも」
独占欲やら嫉妬やらを伝えれば納得はして貰えるはずだ、という言葉を否定する気はない。
保護対象であり研究対象でもある彼には人権的なものがないから、パートナーとして番う事は出来ないけれど、実態はどう考えたって互いを好き合った番だからだ。
「だったら最初から、俺のものに手を出すな、と言ってくださいよ」
「そうは言ってない。むしろお前に抱かれて幸せそうに善がる姿を見たい気持ちは断然強い」
「じゃあ何が問題なんです?」
「今の話に問題を感じないなら問題ない」
なんだそれ。と口に出しはしなかったが、多分顔には出ていた。しかし説明をくれる気はないようで、そのくせなにやら後ろめたさでもある様子で、僅かに視線を逸らしながら引き出しから何枚かの紙を取り出し差し出してくる。
「ではこちらの書類にサインを」
発情期休暇の届けの他、ある意味かなり特別な存在である彼と繁殖行為を行うための申請書類、そして最後に、目の前の男との番い届け。
最初の2枚は何の問題もない。というか出して当然の書類という認識だけれど、最後の一枚を前にさすがに手が止まった。
思わず顔を上げて相手の顔を見つめてしまえば、相手も困った様子で苦笑している。
「言いたい事はわからなくもないが、手っ取り早く同席するのに必要と判断した」
「手っ取り早く、同席……どうせき?」
繰り返しながら、なるほど、と思う。他者に抱かれるパートナーを見るなら、当然そこに一緒に居なければならない。
普通、見合いが成立した相手との行為は独立した部屋の中で2人きりで行うものだ。といっても鍵は掛からないし、毎日最低1回は食事の提供という名の視察が入る。
見合い前に検査やら審査やらがあるものの、発情期に飲まれて暴走してしまう事故が起きてしまうことはあるからだ。
タイミングによっては真っ最中に視察、ということも起こる。つまり他人に行為を見られる可能性は、見合いにだって存在する。という知識はあるのだけれど、前回初めて成立した見合い中は無事に避けれていた。
ニンゲンに発情期はなく、彼にとって行為とは主に食事であり、そこに同席するのは好きあったパートナーではない素面の、しかも自分にとっては雇用主だ。そんな2人相手に自分だけが発情した姿を晒す。という事実に気づいて顔が熱くなる。
問題を感じないなら問題ない、と言われたことの意味をやっと理解した。
「さすがにアレと発情中のお前を2人きりにはさせられないだろう。かといって私もそれなりに忙しい身で、お前の発情期に合わせた休暇なんか取れるわけがない。が、番となれば番の発情期という理由で休暇申請が通るんだ」
それは知ってる。わかっている。これは必要な書類なのだと、もう理解は出来ている。
けれどわかっていると答えるどころか頷くことも出来ず固まっていた。
「やはりやめるか?」
無理はしなくていいぞと苦笑されて、ようやくぎこちないながらも首を横に振って否定を示した。そうしてから、最後の1枚にも自身の名を記す。
「本当にいいのか」
「喜んでもらえるのがわかっているので」
「そうだな。ではこちらを」
渡された紙には水やら携帯食やらシーツやらタオルやらの物品名が並んでいて、横に数字が書かれている。
「これはなんのリストですか?」
「パートナーが居る者たちが発情期に用意するもの、らしい。食事類なども持ち込んで引きこもるそうだ」
「ああ、なるほど」
それらを揃えて、今夜から彼らの部屋で過ごすことが決定した。
続きます
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